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主にテレビドラマや時代劇、アニメの感想文を書いているブログです。

必殺橋掛人 第1話「江戸地図の謎を探ります」

橋掛人の元締・暗闇の多助(長谷川弘)が殺された。多助の娘で尼の春光尼=お光(西崎みどり)は、死ぬ間際の多助から預かった「13の印が書かれた地図」について、多助の顔馴染みであり、実は多助配下の橋掛人である瓦屋根職人のおくら(萬田久子)と松(斉藤清六)の夫婦に尋ねるが、裏稼業の素性を知られたくない二人は知らないふりをする。

多助の死に疑問を持ったおくらは、同じ橋掛人である鳥刺の新吉(宅間伸)とともに調査を開始。多助が住んでいた寺へ行き、娘のお光に話を聞こうとしたが、お光は何者かに連れ去られていた後だった。そこで偶然、反物担ぎの行商人・柳次(津川雅彦)の手引きによって足抜けしてきた吉原の女郎・尾上(本阿弥周子)に出会う。尾上は以前、多助に依頼した奈良屋甚内(八名信夫)殺しについての状況を聞きに来たのだ。多助が死んだことを知った尾上は、おくらに自分の境遇と殺しを依頼した経緯を話す。そのまま依頼料を受け取ったおくらだったが、尾上は殺しの依頼をした人間に対して恐怖と憎悪を抱く奈良屋甚内の手下によって殺されてしまう。

尾上の死に際に立ち会っていたなど、柳次に只者ではない雰囲気を感じ取っていたおくらは、自ら柳次をスカウト。5年前、娘のために殺し屋から足を洗った柳次だったが、おくらと新吉の迫力に押される形で裏稼業に復帰。奈良屋甚内によって監禁されていたお光も、今回の事件をきっかけに裏稼業の道に足を踏み入れることを決意。父の後を継いで元締として橋掛人チームをまとめることになる。

残された江戸地図から吉原の印を炙り出し、尾上が依頼人であることを確認した一同は、依頼料の20両を手に奈良屋甚内一味を仕掛けるべく吉原へと迫る。

第23弾『必殺仕事人V』において、一般視聴者の必殺ブームが落ち目であることに加え、バラエティー路線の続行に限界を感じたスタッフが、「昔ながらの手堅い作風」を目指し、原点回帰のきっかけとして製作が決定されたのが、この『必殺橋掛人』であった。

基本路線として、『新必殺からくり人東海道五十三次殺し旅』の炙り出しを本作でも採用。江戸地図に残された13の印から炙り出された模様を元に謎解きをし、標的を始末するのが基本的な流れだ。

キャスティングには、必殺シリーズ初期において個性的な悪役を演じ人気だった津川雅彦を主役に迎えた。津川にとっては、この作品がテレビドラマにおける初主演作となった。そして、『必殺仕事人V』にゲスト出演した際に夫婦を演じた萬田久子斉藤清六のコンビをレギュラーに昇格。直情的な若者の殺し屋として宅間伸を起用し、元締役にはシリーズの常連である西崎みどりを据えた。

スタッフ面においても、これまでのバラエティー路線を払拭するため、巨匠・工藤栄一が3年ぶりに必殺に復帰。第1話では、工藤自身が演出を手がけた『必殺商売人』の第1話を彷彿とさせるような場面を用意し、津川雅彦演じる柳次の強さを印象付けた*1。また、細かいところでも梃入れがなされており、柳次が毎回ささやかなギャンブルに興じる姿は『必殺必中仕事屋稼業』を彷彿とさせるし、放送後半からはコメディリリーフとして、当時人気絶頂だったぼんちおさむを加入させた。

後期必殺の花形である『必殺仕事人V激闘編』の前の作品ということもあり、少々地味な印象を受けるが、1話ごとの作りは大変手堅い。大きなどんでん返しが用意されている話もあり、後期作品としては非常に面白い。

レギュラー・準レギュラー

登場人物紹介

柳次(津川雅彦
表稼業は担ぎ呉服の行商をしているナイスミドル。呉服問屋の番頭からは、要領が悪いと小言を言われ、家に帰れば先妻との間に出来たおませな娘・お咲と、再婚相手の若い女房・お紺のいがみ合いの仲裁に入るなどしながらも、ごく一般的な家族として仲睦まじく暮らしている。ところが、温厚な父親の影には凄腕の殺し屋「橋掛人」というもう一つの顔が隠されていた。裏の世界ではかなりの有名人らしく、度々命を狙われることもあるが、家族に知られないように対処している。また、昔組んでいた仲間へ独自に繋ぎを取ることも出来る。裏の世界の世渡りが上手なため、一本気な新吉とは反目することも多い。が、いざ仕置に入ると、そのチームワークは抜群である。殺しの得物は反物。外から屋敷に潜入するとき、反物を転がし、その上を歩いて草履の足跡を消す。そして、相手の近くに控えると、反物に縫いこまれた地獄絵図の中から、鬼が持つ棍棒の部分に縫い付けてある金糸を解いて口で千切り、相手に近づいて絞殺するのが手口。この技は、昔一緒に仕事をしていた元締・鬼火の重蔵直々の伝授である。重蔵は、奉行所の手入れが入ったとき、柳次をかばって囮となってくれたこともあり、柳次は重蔵を心の底から尊敬していたのだが、捕縛され死罪となったと思われていた重蔵が、外道として生き延びていたこともあり、柳次と重蔵は同じ技で対決することとなった。また、他にも手ぬぐいを使って絞殺したり、反物そのもので首を絞める場合もある。
新吉(宅間伸
鳥刺しを表の職業とする殺し屋。多助配下の殺し屋として活動していた。しかし、多助が仲間の裏切りによって殺され、娘であるお光が元締を継いでからは、お光の下で橋掛人として活動することとなる。それなりに修羅場をくぐってはいるが、若さゆえ、正義感に溢れ、筋の通らないことには我慢が出来ない性分をしているため、柳次のやり方に対して反発することが多い。しかし、最終的には自分の経験不足を認め、和解する。得物は吹き矢。この矢が相手の急所に命中すると、相手は痙攣して身動きが取れなくなる。その間に、刺さった矢を急所に押し込み絶命させる。橋掛人軍団の切り込み隊長的な役割があり、手練の忍者軍団との対決の時には、単身正面きって乗り込み、おくらや柳次たちの殺しをサポートする役目も果たした。
松(斉藤清六
瓦職人。とても釣り合わないのだが、おくらの旦那。意気地が無く間抜けな顔をしており、いつもおくらの尻に敷かれているのだが、これでも立派な裏稼業の住人である。実際の殺しはおくらが担当するのだが、おくらの武器は一発勝負の瓦であるため、確実に相手を仕留めなければならない。そこで、松が殺しの成功率を上げるため、様々な形でサポートするのである。意外と力が強く、手だけで相手の動きを封じ、その間におくらが急所を切り裂く……などの絶妙のコンビネーションを見せる。
お光(西崎みどり)
多助の娘で尼僧。「春光尼」と名乗ることも。清楚で物静かである。多助の裏稼業については全く知らず、多助が死んだ後、なぜ自分が狙われるのか理解していなかったのだが、柳次やおくらと出会い、全てを理解したお光は、多助の後を継いで元締を名乗ることとなった。しかし、何せ裏稼業に入ったばかりなのにいきなりの元締であるため、勝手が分からず、分配されたお金を取ろうともせず、「お金を受け取らないと、ただの人殺しですよ」とおくらから注意されることもあった。江戸でも指折りの元締であった父・暗闇の多助の娘であることがかえって仇となり、昔多助と同業であった人物に拉致され、拷問を受けることもあった。また、殺しの際には必ず柳次たちの殺しを見届けるため、現場に現れる。後半になると、お光の地味なキャラクターを何とか好転させようと、お光を慕う訳の分からない岡っ引き・伊太郎が登場。劇中で、更に目の前で「旅愁*2」を歌われたときや、目玉を上に向けて「いたろうちゃん……ですっ!」と叫ばれたときには、演技とは別で素で苦笑いをしていた。
お咲(安孫子里香)
柳次の先妻・お藤の娘。非常にませており生意気。今の女房であるお紺に対して良い感情を抱いておらず、事ある毎にお紺と喧嘩をし、最後は柳次を抱き込んでお紺を泣かせている。ところが、まだおねしょが治っていないなど可愛らしい部分もある。
お紺(高部知子
柳次の女房。柳次は再婚であるため、歳も相当離れているが、ラブラブな毎日を送っている。ただ、先妻の娘であるお咲とだけはどうしても馬が合わず、家族問題に対してかなり頭を悩ましている。しかし、明るく、お咲とも喧嘩しながらも結構うまくやっているようである。
伊太郎(ぼんちおさむ
後半から登場しだした謎の岡っ引き。毎回異常にテンションが高い。声が甲高い。お光とよく絡み、当時流行していた「おさむちゃんです!」をもじった「伊太郎ちゃんです!」と自己紹介をしながら登場。お光に抱きつき「”ちゅんちゅん”しよ?”ちゅんちゅん”しよ?」と執拗に迫るが、いつもあしらわれてしまう……というのがコメディパートのパターンとなった。毎回テンションが高いため、まともなセリフはないのかと思いきや、意外と真面目に情報を流してくれることもある。
呉服屋番頭(北見唯一)
柳次が取引している呉服問屋・濱松屋の番頭。恐らく大店の一番番頭ではないだろうか。関西で商売を叩き込まれたのか商魂逞しい性格をしており、柳次の頼みにも一歩も引かない厳しい人物。しかし、柳次との付き合いが長いため、最終的には相談に乗り、文句を言いながらもお金や材料を工面してくれる面倒見の良い人物である。
お藤(鷲尾真知子
柳次の先妻。お咲の母親となる。家を飛び出し柳次とは別れたのだが、やっぱり柳次が恋しくなり出戻ってくる。面白くないのはお紺で、その結果お紺は家出をしてしまう。お紺がいなくなり、お藤が戻ってきたことでお咲は喜ぶが、柳次としてはあまり好ましい展開ではない。そして最終回。子連れ剣客を仕留めた柳次は、帰ってきたお紺、お藤、お咲、そして、剣客の息子を家族に加え、大きな所帯を持つのであった。
おくら(萬田久子
柳次と同じ長屋に住む美人妻。相手の松とは不似合いであるが、お互い堅い絆でしっかりと結ばれている。多助配下のベテランの橋掛人であり、決断力、度胸、頭の良さなどから、橋掛人のリーダー格であったように思われる。そして、その洞察力は、柳次が橋掛人であることさえも見抜いた。しかし、パートナーである松が欠けてしまうと、途端に弱気になり、その決断力も鈍ることがある。殺しの得物は瓦。松が瓦を砕き、瓦を磨いで刃物状にする。そして、自分の髪で切れ味を確かめるのだ。松のサポートにより、その瓦を投げつけ、相手の首筋を切り裂く。最初は瓦が天井などに突き刺さる迫力のある演出を施していたが、いつの間にか、殺しの跡を残さないようにするためか、喉もとを切り裂いた瓦が砕け散ったり、そのまま池に落ちてしまうなどの証拠隠滅が図られる演出が施されるようになった。

スタッフ

脚本 吉田剛野上龍雄保利吉紀
監督 工藤栄一

必殺橋掛人 DVD-BOX

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必殺橋掛人 VOL.1 [DVD]

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*1:セリフ自体も『必殺商売人』でおせいが発したものとほぼ同じであり、脚本に野上龍雄の名が連なっているのはそのためである。

*2:『暗闇仕留人』主題歌。西崎みどりが歌っている。