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主にテレビドラマや時代劇、アニメの感想文を書いているブログです。

付き馬屋おえん事件帳 第8話「恋飛脚 走る」

江戸で一、二を争う韋駄天、伏見屋の多吉が謎の二人組に襲われた。盗まれたのは、春日屋の主が若竹楼へ送る手紙と、番頭・金蔵から預かった六十五両。手紙はさておき、金子は金蔵から個人的に頼まれたこともあり、独自で取り返そうと奔走する多吉。
しかし、借金返済のため多吉の恋女房・おみねが若竹楼へ身請けされてしまう。おえんが掛け合い一日だけ猶予を貰うことができたのだが、その間に多吉は事件を解決し、若竹楼へ金子を届けることができるか。

多吉役に久保田篤、おみね役に森口瑤子を迎えた今回のお話。後半は『走れメロス』に似た構成で、「セリヌンティウス」が一番愛する恋女房というのが、より深い人情劇にするためのアレンジとなっており、まさに時代劇に相応しい設定。

訳も分からず二人組に襲われる多吉。若竹楼への手紙を盗まれるわけだが、次のカットで若竹楼の番頭が付き馬を依頼しに来るという連続した展開。蔵前の米問屋・春日屋から半年前からのツケである六十五両を取り立てて欲しい、という依頼なのだが、春日屋の主は六十五両は既に返済した、という辻褄が合わないことに。これにはおえんも頭の中が?らしく、悩んでいる姿に思わず「この稼業は何かに惚れ込まないとやっていけませんぜ」と新五郎。

それもそのはず。春日屋の主は番頭の金蔵に六十五両を渡し返済するよう言付けたのだが、金蔵がその金を無断で多吉に渡していたのだ。そして、多吉を襲ったチンピラと浪人、そしてこの金蔵は裏で繋がっていたのだ。

多吉は伏見屋を通していない仕事で大金に穴を開けた後ろめたさから、自分一人で事件を解決しようと奔走する。その間、一ヶ月前に夫婦になった恋女房・おみねは借金の返済に窮し、堪りかねて若竹楼へと身を売ってしまう。おえんは若竹楼の主と掛け合い、おみねの身売りを何とか一日だけ待ってもらうことにした。おえんは、おみねの父が危篤に陥ったとき、南の土地まで必死に走り桜を見せてあげた優しい多吉の心に賭けたのだ。

翌日の晩までに事件を解決せねばならない。子の刻に吉原の大門が閉じるまでに、多吉が六十五両を若竹楼へ戻せば全ては済む。しかし、多吉は悪の一味に捕らえられてしまう。消される寸前に到着したおえんと又之助。一味を始末し、多吉は吉原へと走る。時間はあと四半時。駒込から吉原までを必死で走る多吉に迷いはない。この時に挿入されるおみねの儚げな笑顔と桜の花の演出が泣かせる。

大門は閉まりかけているのだが、この時に村木が気を利かせて時間稼ぎをしてあげるのが何とも粋。間に合った多吉、おみねと抱擁を交わし事件は無事に解決する。実は金子には十両上乗せがしてあったのだが、これはおえんが二人にあげた好意の金子。実はおしまとおけいから借金していたりするのだった。

多吉が十手持ちに追われるシーン、必殺シリーズ中の未使用曲か?

キャスト

レギュラー

おえん:山本陽子

又之助:宅麻伸

おしま:入江若葉

浜蔵:黒田隆哉*1/おさと:林美里

おけい:長谷川稀世

村木鉄平:中山仁

新五郎:山城新伍

ゲスト

久保田篤森口瑤子/徳田興人/松本竜介/石倉英彦/下元年世/滝譲二/遠山金次郎/日高久/東村元行/えがわあつこ/福山龍次/小峰隆司/新城邦彦/伊奈江美

スタッフ

原作 南原幹雄新潮文庫・小説推理より)
チーフプロデューサー 江津兵太(テレビ東京)/桜林甫(松竹)
プロデューサー 小川治(テレビ東京)/中嶋等(松竹)/斉藤立太(松竹)
脚本 加瀬高之
撮影 藤原三郎
照明 林利夫
美術 倉橋利韶
録音 中路豊隆
編集 園井弘一
殺陣 宇仁貫三
装飾 中込秀志/清水与三吉
調音 鈴木信一
記録 竹内美年子
助監督 北村義樹
制作主任 渡辺寿男
進行 楳村仁一
スチール 佐々木千栄治
広報担当 高橋修テレビ東京
装飾 高津商会
衣装 松竹衣装
結髪 八木かつら
装置 新映美術工芸
現像 IMAGICA
協力 京都大覚寺/鈴乃屋/エクラン演技集団
主題歌 「雨あがり」 作詞:麻こよみ/作曲:猪俣公章/編曲:小杉仁三/歌:坂本冬美東芝EMI
製作協力 京都映画株式会社
監督 高瀬昌弘
製作 テレビ東京・松竹株式会社

次回予告

新造を水揚して、金を払わぬ食い逃げ野郎。少しばかりの荒療治は、見逃していただきましょう。「切った張ったは稼業じゃないが…喜の字屋おえん、ケジメつけさせてもらいます」次回、付き馬屋おえん事件帳、ご期待ください。

付き馬屋おえん事件帳 第7話「女郎ぐもの罠」

神田橋で料理茶屋を営む花村屋庄八から、金百五十両もの取り立てを依頼されたおえん。相手は大伝馬町で高級料亭を営む天神屋おとよという女主。このおとよ、元は千代里という源氏名で吉原勤めをしていた女で、一年前、当時天神屋の主だった太兵衛に身請けされたのだが、その太兵衛が半年前に死に、今は主として収まっていた。
百五十両の金など借りていないと白を切るおとよだったが、周囲を嗅ぎ回るおえんを疎ましく思い罪人に仕立て上げようとする。自らの色香で男を捕らえ惑わす「女郎ぐも」におえんが取った行動とは。

田島令子をゲストに迎えた今回のお話は、女を武器に男を利用し搾り取れるだけ搾り取る魔性の悪女を相手にする事件。「女の味方」のはずのおえんだが、今回はその女を相手に一体どう出るのか?どちらかというと被害者役が多いイメージの田島令子だが、今回は妖艶な悪女を演じる。

脚本は三船敏郎主演の『素浪人シリーズ』や『新・三匹の侍』『鬼平犯科帳』、横溝正史原作ミステリーなどで知られる大ベテラン・田坂啓。監督は高瀬昌弘という“鬼平コンビ”。とにかく作品のテンポや演出、台詞回し、抑揚のつけ方など、これまでの作品に比べて一段とレベルの高い内容に仕上がっている。

依頼人である花村屋庄八がおえんに借金の取り立てを依頼しようと思って後を付回していたことがそもそもの始まり。おけいの店の表まで付けてきたのを、でしゃばりなおしまとおけいが「おえんに気がある男」と勘違いしたことが発端。おえんも何やら満更でもない様子で、なかなか切り出さない庄八が「百五十両を……」と言った途端、「見損なわないでもらいたいね!百五十両で私が靡くとでも思っているのかい!?」と啖呵を切ってみせるのだが、それが取り立て依頼と分かった瞬間恥ずかしそうにはにかむのが何とも面白い。

さて、その百五十両の取り立てというとんでもない大仕事、取り立てる相手は大伝馬町の天神屋おとよ。ところが庄八は借用証文を持っていなかった。新五郎は「庄八が色仕掛けに引っかかっただけ。これは単なる色事の後始末だ」と取り立てに否定的。「ねぇ~ん、しんさ~ん」とこちらも色仕掛けで迫ってみても冷静な新五郎に、今回も単独で取り立てを行うおえん。

天神屋の料理を、事件のきっかけを作ったおしまとおけいに奢らせるおえん。しっかりしてます。出てきた女主・おとよに取り立てを交渉するも、「借用証文はあるのか?」の一点張りで惚けられてしまう。おまけに、元吉原勤めであることから付き馬屋の手も熟知しているおとよに、今回の取り立ての難しさを感じ取るおえん。そこで、おえんは強攻策に出るのだが、ここからのおえんとおとよの女のバトルが凄い。

おえん「天神屋のおとよさん。あんたのやり口は盗っ人と同じだ。花村屋があんたから証文を取らなかったのは、男と女の仲だったからだ。世間ではよくあることさ。それを逆手にとって、借金した覚えはないと白を切る。恥ずかしくありませんかねえ?おとよさん」
おとよ「百五十両の金は花村屋が私の体に払ってくれたんだ。そういう売り買いに証文はいらないんだよ」
おえん「随分法外な値段だね。吉原のお店で、女郎を上げても一両と一分あれば足りるんだ」
おとよ「娑婆の女の値段は言い値で決まるのさ。ねえ、おえんさん。あんたの体に百五十両払ってくれる男がいるかどうか……あっはは、そいつは怪しいものだけどねえ」

女同士のプライドが火花を散らすこのシーンだが、ここはおえんが一枚上手だった。何せ、おとよが庄八から百五十両を借りたことを証明させたのだから。業を煮やしたおとよは、囲っている岡っ引き・五十吉に命じて、おえんから花村屋がおとよに宛てた証文を奪い取ってしまう。おとよは、自分が男を利用して生きているがゆえに、おえんの独り立ちした女の強さに苛立ちを覚えたのだ。

おとよが反撃に出る。喜の字屋から百五十両強請られていると奉行所に被害届を出したのだ。もちろん五十吉がやってくる。これには村木もどうしようもない。奉行所への護送中に上手く逃げるおえんだが……胸元に刃物を隠し持っていると看破した村木だが、おえんの胸元を見せられたときに焦る仕草がいちいち面白い。

喜の字屋は村木が指定した晦日までに今回の事件を片付け、身の潔白を証明しなければならない。新五郎はまず「おえんへ取り立ての依頼などしていない」と口書きまでした花村屋庄八の態度の急変を調べる。どうやら庄八はおとよとよりを戻したようで、この取り立て自体も、庄八がもう一度おとよを抱きたいがため利用したに過ぎなかった。そして、おえんを強請りで告発したのは、おとよが半年前に行った太兵衛殺害の真相を探られたくなかったところまで付きとめる。おさとが拾ってきた犬は太兵衛が飼っていた犬であり、おえんは太兵衛が持っていた印籠から心臓病の薬を見つける。

期限の前日、おえんはおとよが五十吉を待つ屋形船に乗り込む。おとよは太兵衛に身請けされたは良いものの、店の金を自由に使えなかった。そこで、花村屋から借りた百五十両を元手に太兵衛を消すことを決意。伝馬町界隈で嫌われ者だった五十吉を買収し、実行犯にし立て上げ太兵衛を殺害。太兵衛は布団の中で死んでいたということだが、既に殺害した太兵衛を布団に転がしておいただけであった。更に、その死んだ太兵衛の傍で五十吉に抱かれるおとよ。

おとよは遊女勤めの女の末路だけは晒したくなかった。だから、女と金を武器に男を利用し地位を築こうとした。おえんは亭主殺しを見逃す代わりに尼になることを要求するが、おとよはおえんに刃を向ける。一方、五十吉は新五郎たちの拷問(?)によって口を割ることに。この演出が恐い。おとよはおえんに縛られ、五十吉の証言と合わせて奉行所に突き出され事件は解決。おけいの店で事件解決を喜ぶ中、またもおけいの店の表に変な男が!目一杯めかしこんでやってきたおかしな侍……それは村木鉄平だった。

キャスト

レギュラー

おえん:山本陽子

又之助:宅麻伸

おしま:入江若葉

浜蔵:黒田隆哉*1/おさと:林美里

おけい:長谷川稀世

村木鉄平:中山仁

新五郎:山城新伍

ゲスト

田島令子片桐竜次高峰圭二/えがわあつこ/森下鉄朗

スタッフ

原作 南原幹雄新潮文庫・小説推理より)
チーフプロデューサー 江津兵太(テレビ東京)/桜林甫(松竹)
プロデューサー 小川治(テレビ東京)/中嶋等(松竹)/斉藤立太(松竹)
脚本 田坂啓
撮影 藤原三郎
照明 中島利男
美術 倉橋利韶
録音 中路豊隆
編集 園井弘一
殺陣 宇仁貫三
装飾 中込秀志/清水与三吉
調音 鈴木信一
記録 竹内美年子
助監督 北村義樹
制作主任 渡辺寿男
進行 楳村仁一
スチール 佐々木千栄治
広報担当 高橋修テレビ東京
装飾 高津商会
衣装 松竹衣装
結髪 八木かつら
装置 新映美術工芸
現像 IMAGICA
協力 京都大覚寺/鈴乃屋/エクラン演技集団
主題歌 「雨あがり」 作詞:麻こよみ/作曲:猪俣公章/編曲:小杉仁三/歌:坂本冬美東芝EMI
製作協力 京都映画株式会社
監督 高瀬昌弘
製作 テレビ東京・松竹株式会社

次回予告

江戸一番と噂される、韋駄天売りの飛脚屋・多吉。惚れた女房を泣かせぬために引き受けた仕事に大きな罠が……「切った張ったは稼業じゃないが…喜の字屋おえん、ケジメつけさせてもらいます」次回、付き馬屋おえん事件帳、ご期待ください。

付き馬屋おえん 女郎蜘蛛の挑戦 (角川文庫)

付き馬屋おえん 女郎蜘蛛の挑戦 (角川文庫)