必殺からくり人 富嶽百景殺し旅 第14話「凱風快晴」【終】
ホームシックで江戸へ帰りたいと泣くうさぎ(真行寺君枝)に、唐十郎(沖雅也)は「江戸へ帰れるかもしれん」。今回の仕事の依頼は、北斎の娘・おえい(吉田日出子)から。内容は、何と父・北斎(小沢栄太郎)を殺してくれというもの。半信半疑で江戸へ潜入するお艶(山田五十鈴)だが、北斎から事情を聞くと、北斎の絵が江戸で大人気となり、版元が押しかけ満足に絵が描けなくなってしまったので、好きな絵を描く生活に戻るためにも北斎が殺されたようにしてくれ、とのこと。そこで、お艶はわざと版元連中が集まる料亭で狂言殺人を演出。作戦は見事成功し、北斎親子は晴れて自由の身となった。しかし裏には泥臭い版元・梅屋重兵ヱ(早川雄三)が係わっていることに不安が過ぎるお艶。梅屋は一座を付け回し、唐十郎を「殺し屋」と見抜いた浪人・赤星銀平(清水紘治)を用心棒に雇い入れ何かを企む。
江戸を離れ放蕩を繰り返す北斎親子。梅屋から借りた金も使い果たすが、宴会に乱入してきた役者・中村歌八(西田良)の面白い顔に絵描きの好奇心がくすぐられる。完成した役者絵に「俺は生まれて初めて生きた人間の顔を描いたんだ!」と興奮する北斎は、急ぎ江戸へと戻る。江戸では、梅屋と守山藩勘定方が北斎の絵の値段について腹黒い算段をしていたが、北斎が戻ってきたことに顔色は急変。北斎を蔵へと監禁し、北斎の役者絵を「東洲斎写楽」の名前で売り出すのだが、自分の名前を後世に残したい北斎は梅屋に激しく反発する。蔵を抜け出し他の版元へ向かおうとする北斎を狙う赤星。しかし赤星は梅屋の手代を殺し、梅屋のやり方に反発し守山藩士と斬り合いに。その様子を一心不乱に描く北斎だが、赤星は斬られ、北斎もまた斬られてしまう。
お艶は北斎の恨みを、唐十郎は赤星と対決する約束を果たせなかった恨みを梅屋一味にぶつける。「従千住花街眺望の不二」に描かれた守山藩の行列が赤く浮かび上がり驚く梅屋一味。その直後お艶たちに始末される。江戸を離れていく座員だが、その途中、ふと見上げた屋根の上には昨日死んだはずの北斎がいた!
「ええがな、ええがな。生きようが死のうが、そんなことはどうでもええがな」
最終回の舞台は江戸である。タイトルには北斎の『富嶽三十六景』で最も有名と思われる「凱風快晴」を持ってきているが、実際に赤く光るのは「従千住花街眺望の不二」の行列部分である。
最終回らしいドタバタとした展開で、冒頭から唐十郎を付回す飄々とした浪人・赤星や、裏街道を歩いてきた一癖ある版元・梅屋などが暗躍。事件のきっかけも、北斎自らが「自分を殺してほしい」と突飛なことを言い出したためで、これにはお艶も困り顔。この「北斎殺人事件」の裏で糸を引く梅屋は、今回の「富嶽百景殺し旅」のことを匂わせながら「いずれあなたに殺しを頼むかもしれませんよ」と不敵な笑みを浮かべる煮ても焼いても食えない人物。
江戸で殺し屋稼業を開業するため、唐十郎の殺しを「観察」すべく目を付ける赤星。唐十郎に怪我を負わせる程の剣の腕前だが、気の抜けたような喋り方などどこか憎めない。北斎暗殺を梅屋から指示されたときも、「てめえら汚ねえんだよ。それが梅屋のやり方か」と守山藩士と対決し善戦するも、多勢に無勢で斬り殺される。死ぬ間際につぶやく「俺も汚ねえんだよな」の一言は捻りが効いていて良い。赤星の死に「浪人さん、俺との(対決する)約束はどうなるんだ」と唐十郎。
北斎が役者絵に開眼するシーン。モデルが西田良というのもまた凄い。名を聞かれた北斎だが、すでに死んだことが広まっているため名を名乗れず、やむを得ず「北斎の師匠の”アホクサイ”だ」。完成した役者絵を「生きた人間の顔」と自画自賛した北斎は、梅屋の蔵で製作に励む。ここで、写楽の代表作が次々と挿入されていくのだが、北斎に無断で勝手に写楽の名前を入れた梅屋に向かって「しゃらくせえ!」と激怒。蔦屋などの他の版元へ売り込みにいこうとする北斎を、守山藩の藩士が襲う。赤星と守山藩士が斬り合う中、感情のまま筆を走らせる北斎。しかし藩士の一人に斬られてしまう。お艶たちの手当ても虚しく、「すべすべした肌の女を描きたいんだ!」と最後まで女と絵に意欲を燃やしたまま、北斎の命は尽きるのだった。
依頼人である永寿堂与八が登場しない
今回で最終回だが、北斎と並ぶ「富嶽百景殺し旅」のキーマンである永寿堂与八が登場していない。自らも殺し屋の元締であり、お艶に今回の殺し旅を依頼した永寿堂が登場しないというのは、作品としてかなり問題があると思うのだが、北斎を殺してしまった以上、ここで富嶽百景殺し旅は完結したこととなる。
永寿堂が企画した富嶽百景殺し旅の本当の意図は何だったのか。ただ単に、安藤広重が企んだ「東海道五十三次殺し旅」に対抗するためだったのか。それとも、もっと別の意味があったのか。今となってはもう分からないが、話の出来や内容はともかく、最終回としてはいまいち締まらないエピソードとなってしまったことは残念である。
老いてなお盛んな北斎
お艶が北斎親子と一緒にそばを食べるシーン。山田五十鈴と小沢栄太郎という重鎮同士がやりとりをする非常に重みのあるシーンだが、話の中身は…猥談?
女は形が面白えんだ!形だ!俺は6つの齢から絵を描いているが、この齢になってやっと“モノ”の形が見えてきたんだ。お艶さん、今度お前さんの“アレ”を描く。女は、“アレ”の形が一番面白えんだ!
“アレ”を描くため実の娘であるおえいに夜這いまでする北斎の執念は凄い。
人物画への開眼
北斎が人物画に開眼したときに描いた役者絵。東洲斎写楽の代表作として有名な作品だが、このエピソードでは北斎が描いたことに。東洲斎写楽は謎に包まれた人物と言われるだけに、「北斎が写楽の作品を描いていた」というのは、何とも想像が膨らむ設定である。
必殺シリーズにおける「北斎」
『必殺まっしぐら!』では、第10話「相手は草津温泉の乗っ取り男」に登場。老いてなお盛んなところを見せ付けている。
『大奥春日野の秘密』では東野英治郎が演じており、引っ越し魔の設定を生かして、引越しの最中に主水たちと出会うというもの。セリフはなく終始ニコニコ。ここでは、北斎は「しゃれこうべ」を描き、娘のおえい(黒木香)が肉付けをして顔を完成させるという「複顔法」をパロディにした画風を披露している。何でも「声」から骨格を描くことが出来るという特技を持ち、事件の首謀者が春日野であることを暴くきっかけを生んでいる。
『必殺!主水死す』では鈴木清順が演じている。娘のおえいは美保純。ある人物から依頼され、将軍・家定(細川ふみえ)の似顔絵を描いたことがきっかけで暗殺されてしまった。おえいは、父殺しの下手人を挙げるよう主水(藤田まこと)に依頼するも殺されてしまう。そしてこの事件が発端となり、主水の運命の歯車が終焉へと向かっていくのだった。
「凱風快晴」
「凱風快晴」。日本人なら必ずどこかで目にしていることだろう。
「従千住花街眺望の不二」
実際赤く浮かび上がるのは「従千住花街眺望の不二」のほうで、左側の行列が守山藩の藩士たち、右側が山田の人足という設定。あらかじめ守山藩勘定方の悪事を絵に込めていたのだ。
脚本 | 安倍徹郎 |
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監督 | 松野宏軌 |
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