必殺からくり人 富嶽百景殺し旅 11話「甲州三坂の水面」
甲州にある閑村にやってきたお艶(山田五十鈴)たち天保太夫一座。唐十郎から渡された「甲州三坂の水面」を火で炙ると、水面に映った富士の頂上だけが赤く染まった。真相を探るため、村を探る座員たち。
やがて「富士に登る」と呼ばれる村のしきたりがあることを知る。調べてみると、過酷な年貢を払うことが出来ず生活が苦しい村人のために、村に住むの老人を水面に浮かぶ富士の頂上に連れて行き、石を抱かせて自ら命を絶たせる口減らしのことだったのだ。悲しいことだが、村のしきたりは誰かの恨みや悪事ではない。頭を悩ませるからくり人たち。
ところが、さらに詳しく調べていくと、村の庄屋・久兵ヱ(山本清)が、代官・塩沢伝十郎(深江章喜)や米商人・近江屋(永野達雄)らと結託して年貢の石高を改ざんし、差額を闇に流して金儲けをしているという卑劣な悪事が発覚する。そして、村のしきたりである「富士に登る」ことも、過酷な年貢を取り立てることに対して正当性を持たせるため、久兵ヱによって作り出された嘘であった。
過酷な年貢を支払い切れぬまま、また一人の老婆・おそで(佐野アツ子)が富士に登った。その事を知ったお艶は静かにつぶやく。「殺してやる」と。からくり人の怒りが爆発する。
「口減らし」「姥捨て山」といったしきたりは、この当時の貧村に存在していたであろう悲しい現実だったとは思うが、そのしきたりを、悪人たちが自らを肥え太らせるために利用し、村人たちを騙して死に追いやっていたという惨たらしい悪事が展開される。
表向きは村人たちの暮らし向きを親身に考えてくれる優しい庄屋だが、裏にまわれば村人の命など何とも思わない冷血漢。代官の塩沢や江戸の米問屋たちと一緒に、村で採れた新米を美味しそうに平らげる。その様子を見てしまった村人が、目の前で塩沢に斬り殺されて血まみれになっているにも係わらず、平気な顔で新米を食らう悪人たちの神経には恐怖すら感じる。
恐らく、見ている視聴者はこれらの悪人たちに怒り心頭だと思うが、それはからくり人たちも同じ。今回の仕事は、「目には目を」の原則で久兵ヱを湖に連れ出し、今まで入水自殺した被害者と同じように湖に落とし始末する。久兵ヱが「富士に登った」ことを見届けたお艶は、静かに顔を伏せる。それは村人たちへの哀悼であろうか。それとも、悪人を始末したとはいえ村人の生活は苦しいままであり、これからも富士に登る村人たちが後を絶たないのでは、という悲しい現実を憂いたものだったのであろうか。
「甲州三坂の水面」
湖に映る逆さ富士が見事な作品だが、この逆さ富士の頂上こそ、口減らしのために農民の家族が入水自殺をはかる場所である。
脚本 | 保利吉紀 |
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監督 | 石原興 |
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