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主にテレビドラマや時代劇、アニメの感想文を書いているブログです。

必殺からくり人 富嶽百景殺し旅 第4話「神奈川沖浪裏」

座員が寝静まった夜。三人組の人影を見たお艶(山田五十鈴)は、直後に初鰹を運ぶ漁師たちが虐殺された現場に遭遇する。そこへ北斎の絵を持って現れる唐十郎沖雅也)。「神奈川沖浪裏」を早速炙りだすと、赤く染まったのは海そのものだった。翌朝、急に思い詰めた表情を見せた唐十郎は、「今度の仕事、出来れば外させて欲しいんだが」とお艶に申し出る。その様子に、今回の仕事には唐十郎の過去が絡んでいると推察するお艶。

漁師の死体を鎌倉の漁師町へ運ぶお艶たち。そこは魚甚(汐路章)と魚辰(谷口完)の二つの網元が張り合っており、殺されたのは魚辰の若い衆。魚辰側は、生きたまま鰹を運ぶ「御仕送船」の若い衆までもが虐殺されており頭を抱えていた。そして、その犯行はライバルの魚甚の可能性があるとまで考えていた。そこへやってきた魚甚。魚辰に無実を訴えるが、この因縁はそう簡単に消えそうにない。お艶は唐十郎に、江戸へ行き今回の初鰹の一件で誰が一番儲かったかを調べるよう指示を出す。

江戸へ向かう途中、唐十郎は八丈島で一緒だった殺し屋三兄弟と再会する。彼らは唐十郎が恨みを抱く上総屋(御木本伸介)に雇われており、魚辰の漁師を殺害したのも彼らであり、上総屋の計略だった。今回の一件から手を引くよう要求する三兄弟だが、唐十郎はからくり人の意地を盾に断り、彼らと敵対することに。その事を知った座員も、唐十郎を追うように江戸へと潜入する。

上総屋は今回の計略が成功し大儲けをしていた。そしてこの男こそ、7年前に江戸で板前をしていた唐十郎の雇い主であり、唐十郎の婚約者だったお静(三浦真弓)を父親の借用証文を盾に寝取った男だったのだ。激昂した唐十郎は上総屋の命を狙うが未遂に終わり、島送りとなったが、上総屋は島から帰ったあとの復讐を恐れていた。しかし、三兄弟の力を借りて唐十郎を捕え、拷問にかけて悦に浸る。

宇蔵(芦屋雁之助)と鈴平(江戸屋小猫)の助けで救出された唐十郎。お艶らは場末の盛り場で三兄弟を始末し、唐十郎は上総屋を始末する。上総屋の傍らには、過去に自分が愛した女・お静が眠っていた。

唐十郎の過去編。江戸で唐十郎を狙う女がわざと鼻緒を切るシーンでの遠近法を利用したカメラ位置、上総屋がお静を犯すシーンで蝋燭の炎と格子戸を繰り返して挿入、捕らえた唐十郎を助けるよう懇願するお静が錯乱し障子に蝋燭で火をつける、など工藤栄一の工夫に満ちあふれた演出が随所で冴え渡るが、最も驚くのは、唐十郎とお艶のやりとりの最中、唐十郎が一人思いつめるシーンの背景が本物の「神奈川沖浪裏」になっているところだろう。お艶のセリフに込められる意味と唐十郎の心中を差別化した表現であるとも言える。

江戸処払いのはずのお艶一行だが、いとも簡単に江戸へと侵入してしまう。この時に、宇蔵と鈴平に絡んでくる若者のコメディパートが面白い。江戸での拷問シーンでは、沖雅也と御木本伸介の迫真の演技合戦が展開。恋人を奪われ、板前としての道も断たれた結果、「人殺し」への道を歩まざるを得ない原因をつくった上総屋への恨みを思う存分に描いており、上総屋が唐十郎を追い詰めるセリフも強烈である。この後、宇蔵が唐十郎を助け出す際に土蔵破りのテクニックを披露する見せ場も設けている。

殺しのシーン。黒部進内田勝正(内田昌宏)、大林丈史という、これまた濃い配役の殺し屋三兄弟を始末するお艶と宇蔵。この三兄弟、大きな口を叩く割にあっさりとやられてしまって拍子抜け。唐十郎は一人上総屋へ。寝屋で上総屋の隣にいる元婚約者・お静を見て目を見開いたまま動かない唐十郎。しかしそのまま釣竿の針を前へと押し進める。上総屋を仕留めた後、夜の江戸の町を一人歩く唐十郎は何を思うのか。「男も辛いし、女も辛い」インストゥルメンタルではなく歌詞付きで流れる「夢ん中」が切ない幕切れ。

「神奈川沖浪裏」

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「凱風快晴」と並ぶ北斎の代表作の一つ。赤く染まるのは「御仕送船」を今にも飲み込まんとする大きな波である。

脚本 國弘威雄
監督 工藤栄一

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