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主にテレビドラマや時代劇、アニメの感想文を書いているブログです。

必殺仕事人V旋風編 第10話「主水、ワープロをうつ」

南町奉行所では改革の一環として、同心部屋で作られた文書が自動的に上司の文書箱へと収められる「手動文書運搬機」や、筆を使った書類作成に対応した、奇麗なフォーマットで書類を書くことができる「升目付き定規」などが導入され、それらを見た主水(藤田まこと)は思わず渋い顔。それもこれも、年番与力である金森右京(上野山功一)と出入りの紙問屋・伊良子屋(高木二郎)が組んでのこと。奉行所内は、この金森の書類作成効率の改善を高く評価し、近く筆頭与力にまで昇進するという噂が持ち上がり、同じ与力格である鬼塚(西田健)は意気消沈。

政(村上弘明)の知り合いのおとせ(大信田礼子)は未亡人で、女手一つで息子・原田宗吉(阿南忠幸)を物書方同心にまで育て上げるが、その裏には金森との密通があった。その金森の目的は、伊良子屋と組んで新改訂となった公事方御定書百箇条を長州藩の侍に高く売り飛ばすこと。金森は筆が立つ原田に公事方御定書の謄写を命じるとともに、伊良子屋が連れてきた謄写術の名人・朝吉(松尾勝人)にも、同じく公事方御定書を書き写させる。

御定書の謄写が終わり、朝吉は伊良子屋によって始末された。しかし、銀平(出門英)の働きにより「公事方御定書が長州へと流れる」との噂が出始め、誰かが責任を取らなければならない事態となった。金森は原田に濡れ衣を着せ切腹を申し渡す。しかし、身に覚えのない罪状に、原田は切腹は嫌だと拒否。止む無く金森は原田を斬り殺すのだった。

おとせは、息子が斬殺されたことを金森に詰め寄り返り討ちに。政が恨みを晴らして欲しいと仕事料を出し、金森一味と長州藩士を始末する仕事人たち。

時代劇では考えられないタイトルの奇抜さ(これまでの話もそうだけど)、冒頭で導入される奉行所の突飛な改革、締めのせんりつコントで登場する「本物のワープロ」を使って自分の名前をタイピングする主水の妄想シーン……なかなか凄い作品だ。ここまでして「ワープロ」を前面に押し出したいのか。更には、何の脈絡も無いコメディシーンが過分に盛り込まれていてテンポが最悪。

話の本筋としては、改訂された公事方御定書を、反幕府方である長州藩へ売りさばいて利益を得ようとする悪徳与力と紙問屋の企み、その企みに利用される未亡人の女とその息子、そこに政の純情と過去を掘り下げるエピソード*1が絡んでいくというはっきりとした構図で分かりやすい。「謄写術の名人」といった別の裏稼業を登場させているのも奥行きを感じるが、何せその部分が、前述の「ワープロ」絡みに全部吸い取られてしまっていて、非常にもったいない。きちんと時代劇として作っていれば、大信田礼子扮するおとせの悲壮さも相まって、安倍徹郎らしいかなり深みのある作品になったのではないだろうか。

どうしてこうなってしまったのか分からないが、旋風編の迷走の象徴として、また藤田まことの発言からして、このエピソードはいろんな意味でファンから注目される作品である。

スタッフ

脚本 安倍徹郎
監督 石原興

必殺仕事人V 旋風編 DVD-BOX

必殺仕事人V 旋風編 DVD-BOX

*1:昔に花屋を営んでいたことや、「自分の母親をこの手で殺した」などの独白。