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主にテレビドラマや時代劇、アニメの感想文を書いているブログです。

必殺仕事人V旋風編 第8話「主水、コールガールの仇をうつ」

坊主・玄達(芝本正)が百軒長屋で説法。女と言う不浄の生き物に生まれた業を説き、おりん(桃山みつる)が過去に堕胎していたことを看破。水子供養の代金をせしめるが、主水(藤田まこと)はピンハネを迫る。「騎西屋宇兵衛」の名を出す玄達だがお構いなし。しかし後日、民間の活力を重視する鬼塚(西田健)と田中様(山内としお)から厳しいお叱りを受ける。騎西屋宇兵衛(牧冬吉)は江戸一番の香具師の元締。奉行所も何かと世話になっているとのことで、受け取った賄賂は奉行所内の会計に返還となった。供養と言えば、中村家も朝からりつ(白木万理)がお経を上げている。仏壇を見ると水子供養のお守りが。「俺は絶対に子供を孕ませた覚えはないぞ」と主水。

さて、宇兵衛が鬼塚と田中を接待している場にコンパニオンのコールガールが登場。その中のおむら(千野弘美)に一目惚れの宇兵衛は「落とし屋」の異名を取る手下・鎌吉(河原さぶ)に後をつけさせる。おむらが男に絡まれているところを助ける主水。おむらは家庭環境が複雑で、父親がケガが寝たきりで働けず貧乏となり、後妻とは折り合いが悪く身売り話が持ち上がり、とうとう14歳の時に吉原へ売られてしまった。12年の年季の間に育ててきた木がすっかり大木となった頃、おむらは長屋へ帰ってきた。親のために吉原へ身を売った孝行娘と最初は評判だったが、すぐに「誰とでも寝る吉原帰りの女」だと噂されてしまうようになる。義理の母親までもが汚い言葉を浴びせるようになり、家を出て住み込みで働いているときに出会ったのが現在の亭主・多吉(坂西良太)だった。多吉はおむらの過去を知っていても一切聞かず口にもしない心優しい男。そんな男と知り合い結ばれた幸せ絶頂のおむらを、主水は温かく見守るのだった。

その多吉に鎌吉の魔手が迫る。多吉は、騎西屋が差し向けた掏摸に、棟梁から預かった材料費15両を掏られてしまう。狼狽する多吉に、貸本屋に扮した鎌吉が近づき儲け話をチラつかせる。その儲け話とは、人妻を金持ちの隠居に抱かせるだけで10両~20両の小遣いを得ることができるというもの。切羽詰った多吉はおむらに頼む。「他の男に抱かれてくれ。昔の稼業に戻ってくれ」と。しかし、頑なに拒否するおむら。癇癪を起こした多吉はおむらに向かって「吉原の女郎上がりが。亭主のためにたった一人の男も抱けないってのか」と口にしてしまう。その言葉に何もかもを失い泣き崩れるおむら。翌朝、自分が12年育ててきた木で首を吊っているおむらが発見された。「なぜ死ななきゃならなかった……」と静かに憤る主水。

鎌吉の後をつけて騎西屋へ殴りこむ多吉だが、反対にリンチに遭って死亡。多吉から仕事料を受け取った主水とお玉(かとうかずこ)は、仲間を集めて今回の仕事をどうするのか話し合う。政(村上弘明)と順之助(ひかる一平)は反対。過去のある女を妻に持った男が、一生口にしてはいけない言葉を口にしたのだから自業自得である、と。しかし、銀平(出門英)は騎西屋たちの企みを屋形船で全て聞いており、一同はその証言を元に、騎西屋たちを仕事にかけることを決意する。

必殺シリーズ第1作『必殺仕掛人』から、第13作『必殺からくり人富嶽百景殺し旅』までの作品に関わり、『必殺仕置屋稼業』『必殺仕業人』ではメインライターとしても活躍した脚本家・安倍徹郎が、約8年ぶりに担当した作品である。なお、安倍にとっては『必殺仕事人』シリーズへの参加は初めてである。

安倍お得意の「女の業」を描いた作品で、過去に縛られ続けたことにより悲劇的な最期を遂げるおむらの姿が哀れに映る。おむらが身の上話をしている最中にかかる挿入歌や、最も信頼していた夫に裏切られ、自ら死を選んだおむらの姿を見て静かに怒る主水など、見所も多い。

この作品では「女」を縦糸に最初から最後まで作品が貫かれている。冒頭の玄達の口上から、中村家のコント&オチ、順之助が絡むコメディパートに至るまで、全て何らかの「女の生き方」に纏わる要素が込められている。ただ、矛盾している部分もあり、中村家のコントでは、りつが水子を供養するシーンで「俺は種無しカボチャだ。絶対に子供を孕ませた覚えはないぞ」と主水がつぶやくのだが、事実『必殺商売人』ではりつが懐妊しており、さらには最終回で死産という悲劇的な幕切れとなっているので、りつが水子を供養していてもおかしくはない(今回のオチとしてはまったく別物なのだが)。しかも、『必殺商売人』の最終回を担当したのは、今回の脚本を担当している安倍徹郎なので、シリーズのファンからは余計に矛盾を感じてしまう。このあたりの整合性については、もう少し何かしら工夫をしてほしかったと個人的には残念に思う。

さて、殺しのシーンに向かう前だが、仕事人一同がアジトに集まり「さあ今回の仕事、やるかやらないか」と合議に諮るシーンが加えられ一捻りされている。『必殺仕事人III』以降、流れ作業的に仕事料を配分するだけのアジトシーンが多いように思えたが、裏の仕事についてどうするのかをきちんと考える場面を設けているのが、何だか新鮮に思えた。

殺しのシーンでは、まず順之助のバズーカが炸裂。バズーカで二人貫通→爆破でありえない大ジャンプはやっぱり面白い。この爆破が本当の仕事のきっかけとなるのも、通常とは少し違った展開。しかし鬼塚様、このバズーカでの殺しを「うむ間違いない。これは過激派の仕業です」と断定するところが何というか。爆弾魔が犯人と決め付け、奉行所の役人が辺りを警戒する中で仕事をする、なかなか緊迫した展開。社務所へ騎西屋らをおびき寄せた後、銀平が宇兵衛を、政が用心棒を(スローモーションでの殺し)、そして主水が、多吉おむら夫婦を罠に嵌めた実行犯である鎌吉を大刀で始末する。仕事が終わった後は、わざと腕に傷を作って過激派との交戦を装い、職務上の公傷で休暇を貰うという主水の狡賢さも光る。

スタッフ

脚本 安倍徹郎
監督 水川淳三

必殺仕事人V 旋風編 DVD-BOX

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